642 :環八:02/03/24 17:09
少女が住んでいたのは、とある大きな通りに面した家だった。
その当時は、暴走族の全盛期で、幼い少女も騒音で時折眠れない日もあった。
だが、その夜はいつもと違った。外は全くの静寂に包まれ、車の音の一つもしない。
ただ、風の音だけがしている。
「ひゅー、ひゅー」
その音は、まるで金属をするような音だった。その音に混ざって、少女を呼ぶ声が聞えた。
「お姉ちゃんが呼んでる」少女は何故かそう思ったという。
少女は、声のする方へ歩いていった。その声は外から聞えてくるようで、少女は玄関に向かった。
少女が玄関のドアに近づこうとすると、ドアのすぐ向こうから声が聞えた。
「Iちゃん(少女の名前)ここ、開けて」
その声はとても温かく、安心できる声だったので、少女はドアを空けようと
ドアノブに手を伸ばした。その瞬間、「開けちゃ駄目!」という大きな声が、
少女の後ろから聞えた。振り返るが、そこには誰もいない。
ドアの向こうから、またあの声がした。「どうしたの?Iちゃん。開けて?」
少女がが再びドアノブに手を伸ばそうとすると、またしても後ろから大きな声が。
「開けちゃ駄目!」
それが幾度と無く繰り返され、恐怖と疲れから逃れたいと意を決した少女は、
ついにノブに手をかけ、回そうとした。
「開 け ち ゃ 駄 目 !!」
今までで一番大きな声が後ろからして、少女は身体に電気が走ったような感触を
受け、ノブから手を離し、弾みでしりもちをついた。すると、少女が寝室から
いなくなったことに気づいたお母さんが、廊下の方から心配そうにやってきた。
「どうしたの?I。こんな時間に」お母さんのその声で今までの恐怖が一気に噴出して
来た少女は、立ち上がりお母さんに、飛びついた。だが、去り際に少女は確かに聞いた。
ドアに向こうから
「畜生。もう少しだったのに」
という男の野太い声を。
647 :環八 後日談:02/03/24 17:18
明くる朝、少女は何があったのかを母親にすべて話した。
母親には思い当たる節があった。
少女が生まれる数年前、母親は女の子を一度流産していたのだ。
「あの子が、Iを連れて行こうとしたのかしら」
母親はそう思ったが、少女は姉は多分助けてくれた後ろの声だと思った。
そうするとあのドアの向こうの声は一体・・・
時は流れ、少女は中学生になった。
ある日、学校で以前家に遊びに来た友達にこんなことを言われた。
その子は霊感が強いと評判の子だった。
「ねえ、前遊びに行ったとき、Iちゃんの家の前に女の子が立って
いたんだけど、あの子、あまり良い感じしないから、お寺さんに
見てもらったほうが良いよ」
中学生になった少女は思った。
あのときのお姉ちゃんは、まだドアの前に立っていたんだと。