929 :経験者:01/08/29 16:22 ID:jDWUE/bk
8月14日その日からやっと俺は夏休みがもらえた。
休みになる前の3日間は久々に仕事に追われ、ほとんど徹夜でCADとにらめっこ
仕事をなんとか片づけた俺は、その日爆睡していた。
夕方電話の音で目が覚めた。電話の主は沖縄にいたときの友人Sだった。
Sとは中学の時に、家のお払いのために親戚のユタのおばさんを紹介して以来
家族ぐるみの付き合いをしていた。それでもSと話すのは約6年ぶりだろうか。
Sは沖縄で仕事がないため、今年のはじめから東京で働いているらしい。
一通りの雑談をした後Sは、「東京で相談できるのはお前しか思いつかないから
話を聞いてくれないかな」そう言われて俺は「じゃ今から晩飯がてら待ち合わせるか」
そう言ってSの住む場所を聞くと、俺の住む場所からわりと近いところに
住んでいた。俺は分かりやすい場所を指定して待ち合わせることにした。
店に着いた頃には7時を過ぎており、店も混み始めていた。
Sは俺よりも先に着いていた。
930 :経験者:01/08/29 16:23 ID:jDWUE/bk
今現在Sはトラックの運転手をしており、その前はタクシーの運転手を
していたそうだ。飯を食い終わり俺はSに相談内容を聞いてみた。
「相談てなんだよ?」Sに聞くと、神妙な顔をしながら話し始めた。
話は今年の3月にさかのぼる、夜の11時頃に女性客を乗せて行き先を聞くと
北富士のゴルフ場に行ってほしいと言われ、場所がよくわからないから
時間がかかってしまうかもしれないけど良いですか?そう聞くと女性は
「それでも構わないのでお願いします。」11時過ぎにこんな長距離を拾うなんて
Sは喜んだ。
F駅から出発してすぐにSは高速を使うか尋ねた。女性のOKをもらい
タクシーを高速に向けて走り出し、高速に乗ると女性はSに次のSAで
飲み物を買いたいので寄ってもらいたいと言ってきた。
客の指示どうり石川SAで一旦タクシーを止めて、女性が戻るまでの間Sは
地図を広げてゴルフ場の場所を探した。だが探す前に女性は戻ってきた。
後部座席を開けると女性は、「前に座らせてもらえませんか、何もしませんから」
笑いながらそう言われてSは、女性が綺麗だった事もありわくわくしながら
前の席に乗せたそうだ。
隣に乗ってきた女性は、Sにコーヒーを差し出してくれた。
それに気を良くしたSは、目的地に着くまでの間ずーっと喋り続けたそうだ。
931 :経験者:01/08/29 16:24 ID:jDWUE/bk
河口湖ICを降りて139号線に入って、Sは目的地を確認したいので地図を
見てもいいかと尋ねると女性は、「場所は大体わかるからいいですよ」
そう言われてSは「それじゃ近くなったら教えてください。」そう言って
また雑談を始めた。
しばらく走っていると、辺りに何もない事に気づいたSは心配になり女性に尋ねた
「こんな時間にゴルフ場にいかれるんですか?」すると女性は
「本当は最終の電車で着く予定でいたんですが、乗り遅れてしまって」
それを聞いてSも安心して「泊まりで朝からラウンドの予定だったんですか」
そう言って笑ってすませた。
そして精進湖にさしかかった時女性が「あっこの辺でいいですよ。」Sはそう言われ
「でもこの辺何もないじゃないですか」そう聞くと「湖の横に泊まる場所が
あるんで大丈夫ですよ」そこまで言われるとSも何も言えず、タクシーを止めた。
Sは女性が降りる前に、自分の名刺を渡し、「また利用する事があったら
是非お願いしますね。」そう言って女性と別れた。
932 :経験者:01/08/29 16:26 ID:jDWUE/bk
それから1ヶ月が経過した頃から、Sの周りで奇妙な事が起こり始めた。
夜中繁華街を流していても、誰も手をあげてくれないのだそうだ。
そしてSの後方から来るタクシーに乗ってしまう、あまりにもそんなことが
続いたある日Sは、一人の酔っぱらいの客を乗せた。
かなり酔っていたその客はSにむかって、怒鳴り始めた。
「あんたも仕事だろ、だったら隣に彼女なんか乗せて仕事しちゃいかんだろ」
怒鳴られたSは「そんなことはしませんよ」そう客に言い返すと客は
「じゃー研修か何かなんだな、そいつはすまん」そう言いながら笑っていた。
しばらく走りその客を降ろした後、Sはもしかしたら自分に見えない何かが
乗っているのだろうか、そんな事を考えながらも仕事を続けた。
繁華街で客を拾える事はそれからほとんどなくなり、そのかわりに
1週間に3度から4度、長距離の客をつかまえられるようになった。
でもおかしな事に、その全ての客の行き先は大月方面だった。
やっぱり何かおかしい、そんな事を考えている時にある1人の客を乗せた。
933 :経験者:01/08/29 16:27 ID:jDWUE/bk
客を乗せて目的地に着くとその客はSに聞いてきた。
「運転手さん、隣に誰か乗せてるの気づいてる?」そう言われてSは
「やっぱり誰かいるんですか。」逆に聞いてみた。
すると客は「降りて話ししましょう。」Sもそれに従い車外で話しを聞き始めた。
その客は自分が住職であることを告げ、「これは私の助言として聞いてください。
今すぐにこの仕事を辞めなさい、でないとあなたの身に災いが降りかかる
おそれがあります。」そう言って、少しここで待っていてくださいと言い
家からお札を持ってきて、助手席にそえてお払いのようなことをしてくれた。
Sは住職の助言にしたがい、会社を辞めたそうだ。
そしてすぐにトラックの仕事を始めた。それからは妙な事はなかったのだが
この間の9日の日に、南小谷までの配送を頼まれて、夜中に中央高速を
走っていた。そして大月ジャンクションにさしかかった時に、Sのトラックの
横をタクシーが抜いていこうとした、そのタクシーを見ると助手席に
Sが乗せた女性がいた。その女性はじっとSを見ていたそうだ。
Sは自分自身に(気のせいなんだ、気のせいなんだ)と言い聞かせ、
高速を降りて国道で南小谷まで向かった。
その帰りもSは高速を使った。帰りは逆だから大丈夫だろうと思い
走ったが、やはり同じ場所で同じ事が起こったのだそうだ。
934 :経験者:01/08/29 16:28 ID:jDWUE/bk
Sの話を一通り聞いて俺は「今はもう平気か」と尋ねた。
すると「今はちょうど夏休みもらってるから変なことはないけどな。」
そう言い終わるとSは、「なんで彼女がみえたのかな?」逆に聞かれた。
Sは自分が女性をおろした場所がどういう場所かしらないらしい。
俺は「お前なんも知らんのか、お前が女の人おろした場所の横は
青木ヶ原なんだぞ。」Sはキョトンとして「なんだそれ」と言ってきた。
「自殺の名所だよ」それを聞いてSはやっと理解したらしい。
「お前住職の行動とかで理解しなかったんかい」Sは自殺とかは
一切考えなかったらしい、何か事故にでもあったのかもしれない位は
考えたらしいが・・・・。
それからSは、自分はその場所に行って線香でもあげなきゃいけないと
いいだした。俺は冷たくやめとけといったが、聞いちゃくれない。
「行くなら1人でいけよ、俺は行かねーよ。」そう言うとSは俺のことを
薄情者よばわりしはじめた。
あまりのしつこさに、俺も諦めて一緒に行くことにした。
「なにが嬉しくてこんな夜に、それもお盆に自殺の名所に行かなきゃなんねーんだ」
そう吐き捨てながら、Sが女性をおろした場所に向かった。
思ったよりも高速は混んでなく、夜中の1時前にはその場所に着き
近くの樹海の入り口で線香をあげるように、俺はSに促した。
その女性が本当に自殺したのかどうかは俺にはわからん。
でも何となくそうなんだろう。
935 :経験者:01/08/29 16:30 ID:jDWUE/bk
線香をあげながらSは動こうとしなかった。あまりこんな所には
長くいたくはない、そう思い強引にSを捕まえ車に押し込み
樹海を後にした。Sは落ち込んでいた。
俺はSに声をかけた「その女の人綺麗だったの?」するとSは
真顔で「すげーいい顔してたよ、もろ好みだった。」そう聞いて俺は
少しでも元気が出ればいいけど、そんな事を考えながら車を走らせた。
雑談をしながら走っているとSがいきなり大声をだした。
俺を見ながら「もっとスピードを上げてくれ」俺はいきなり何だよ、と
怒鳴り返した。Sは後ろを指さしながら「彼女が付いてきてる」
場所が場所だけに洒落にならん、そう思い出来るだけスピードを上げ
なんとか高速に乗っかった。家に付くまで俺は出来るだけ
後ろを見ることはしなかった。
余談
Sが彼女に名刺を渡しながら、是非お願いします。と言った後彼女は
「必ず呼びますね、呼んだら絶対に来てくださいね。」そう言って降りていったそうだ。