生きている怖い人

海の柩

847 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/05/16 23:48
うーむ、さっき吉村昭の「海の柩」を読んだのだが怖かった・・・。
後書きから考えて、実際にあった話だと思う。

太平洋戦争末期、北海道の漁村に、ある日たくさんの日本兵の水死体が流れ着いた。
数は500体近く。どうやら兵士を満載した輸送船がアメリカの潜水艦に攻撃され、沖合い
で沈没したらしい。死体の中に将校のものは無かった。将校たちは救命艇で脱出できたらしい。

死体を収容していた漁師たちは、奇妙なことに気づいた。腕のない死体がかなり混じって
いるのだ。手首の欠けているものもあれば、上膊部から失われているものもある。海水に
洗われて血はにじみ出ていなかったが、鋭利なもので断ち切られたように断面は平らだった。
中には片腕がない上に、顔面に深々と裂傷の刻まれているものもある。船から海中に飛びこんだ
折に出来た傷かとも思えたが、死体の半ば以上が腕を切り落とされていることは異様だった。

・・・・・さてクイズです。なぜ死体には腕が無かったのでしょう?

 

 

 

 

 

 

854 :847:02/05/17 00:01
---------------------------------
(筆者が生き残りのKから話を聞くシーン)

「切りましたか?」
私はたずねた。
「なにをですか?」
かれは、いぶかしそうに私を見つめた。
「兵士の腕です」
男は、一瞬放心したような眼をした。徐ろに視線を落としたが、あげた顔には
妙な笑いが薄くただよっていた。
「私は、切りませんよ。暗号書を抱いて舟艇の真中に座っていたのですから・・・。
かれの微笑は深まった。
「切った将校もいたのですね」
と、私。
「いました」
と、彼。
「船につかまってくるからですか」
と、私。

856 :847:02/05/17 00:10
「船べりに手が重なってきました。三角波にくわえて周囲から手で押されるので、
舟艇は激しくゆれました。乗ってくれば沈むということよりも、船べりをおおった
手が、恐ろしくてなりませんでした。海面は兵の体でうずまり、その中に三隻の
舟艇がはさまってました。他の舟艇で、将校が一斉に軍刀をぬき、私の乗っていた
船でも、軍刀がぬかれました。手に対する恐怖感が、軍刀をふるわせたのです。
切っても切っても、また新たな手がつかまってきました」
「あなたは、なにもなさらなかったのですか?」
「靴で蹴っただけです」
男は、かすかに眉をしかめた。
「腕を切られた兵士は、沈んでいきましたか」
「そうです。しかし、そのまま泳いでいる者もいました。
「兵士たちは、なにか言いましたか?」
私は、たずねた。
男は、口をつぐんだ。微笑がこわばった。フィルターつきの煙草を手にした
が、火はつけなかった。
男が、口を開いた。
「天皇陛下万歳、と叫んでいました」
私は、ノートをとる手をとめて、男の顔を見つめたが、窓の外に視線をそらせた。

857 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/05/17 00:21
後書きによると、その後この事件についてNHK・ドキュメンタリーが企画され、
吉村氏はプロデューサーからK氏の住所と名前を教えて欲しいと何度も懇願さ
れたが、口をつぐみ続けたらしい。取材のため老漁師に話を聞いたときも、終戦
から25年もたっているのに、憲兵に口止めされているからといってなかなかしゃべって
くれなかったそうだ・・・

吉村昭では、他に「総員起シ」もおすすめ。戦争中、瀬戸内海で訓練中の潜水艦が沈没、
102人が死んだ。9年後に潜水艦を引き上げたのだが、艦内には水の進入を免れた区画が
あり、当時のままの姿で保存されていたのだ・・・。

https://curry.5ch.net/test/read.cgi/occult/1016111756/

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