626 :四散した肉体:02/03/24 15:25
非常に寒い真冬の出来事です。
暑い夏も大の苦手な私ですが、同様に寒い冬も非常に苦手で、これでもかというほどに衣服を着込み、勤め先から帰路についている途中でした。
肌を突き刺すような寒風に晒され、身をすくめながら歩く私の横を一瞬、何かが通り過ぎたのです。
ほんの一瞬でしたので、ハッキリとは確認できなかったものの、青白い物体でした。
風は益々強さを増し、マフラーの中に首をすぼめながら、私は自宅への歩を進めました。最寄りの駅から自宅までの距離は徒歩で二十分程度。
普段ならバスを利用して帰宅するのですが、その日は途中のコンビニエンスストアに買い物があった為に徒歩での帰宅と相成ったわけであります。
駅から五分程も歩いた頃、コンビニが十字路の先に見えて来ました。
横断歩道に差し掛かったその時。
私の身体をまたもや何かが横切ったのです。
先ほど同様の青白い物体。
それがなんであるのか。
今度はハッキリと見る事が出来ました。
それは『人間の腕』・・・・・。
おそらく男性のものであろうその腕は最初に見たものとは違い、ユックリと私の眼前を横切って行ったのです。
私は信号が青になっている事にも気付かず、呆然としておりました。
浮遊する腕。
なんとも薄気味の悪いものです。
私はコンビニで早々に買い物を済ませ、足早に家路を辿りました。
『もう二、三分で家だ!』
最後の角を曲がり、後は自宅までは直線の道のみ。
その時です。
後方からただならぬ気配を感じ、恐る恐る振り返ると・・・・・。
そこには丸裸の人間の胴体が浮かんでいるではありませんか!
腕と太股の付け根、首の部分は何かに引き千切られたかのような痕跡を残しているものの、不思議と血は出ていません。
胴体だけの男性の肉体はゆらゆらと右へ左へと奇妙な動きをし、フッと消えてしまいました。
私は相変わらずの霊能体質を呪いながら、くるりと踵を返したのです。
するとどうでしょう!
今度は路上に首が転がっているではありませんか!!
短髪の四十代前半と思しき中年男性の生首・・・・・。
不気味に一点を見つめるその瞳は明らかに生命を感じさせるものではありません。
生首が生気無く見つめるその先に何があるのか?
再び私は後方に振り向きました。
そこには一軒の民家。
ごく普通の、なんの変哲も無い一般家庭の団欒の時間。
まだ部屋の明かりも点いております。
『この家に何があるというのだ?』
不思議に思い、生首が見つめるその民家の傍までやってきました。
「ワン!ワン!」
猛然と役目を果たす番犬に驚きながらも、庭先を覗きこみました。
はたから見ればストーカーなり、変質者に見えてしまう・・・・・。
そんな考えが頭をよぎるくらいの余裕はまだこの時にはあったのです。
庭先に目をやった瞬間。
そんな余裕が吹き飛んでしまう、大きな衝撃を受けたのです。
627 :四散した肉体:02/03/24 15:26
続き
先ほど目撃した全裸の胴体が庭に横たわっているのです!
それだけではありません。
胴体の近くにはもぞもぞと何かが蠢いています。
胴の最も近くに右腕が・・・・・。
そして順に左手、左足、右足がゆっくりと胴体に近付いているではありませんか!
その光景の気味の悪さを御想像下さい・・・・・。
人間の身体の各部位が、それぞれ意思を持ったかのように蠢いている様を。
私ははたと気付いたのです。
『あの生首は・・・・・?』
振り返った私の身体には無数の鳥肌が一瞬で立ちあがりました。
生首は私の居る方向にユックリと向かって来ているのです!
それも今度は完全に目の焦点が私を見ています。
うっすらと微笑んでいるようにも見えました・・・・・。
私は二、三歩後ずさりをし、脱兎の如く逃げました。
自宅にはすぐに到達しましたが、あまりの恐怖からか、寒さからなのか、手が震え自宅の鍵が思うようにポケットから出てくれません。
あたふたと鍵を探している私の肩をポンと叩く掌の感触・・・・・。
『来た・・・・・。』
先程の四散していた肉体の全ての部位が揃ったのだ!
そして私の元へとやってきたのだ!
私の恐怖は頂点に達し、もはや振り返る事すら身体が拒否しておりました。
やっとの思いで鍵を開け、肩を振るい、手の感触を払い除け、家の中に入りました。
私の帰宅に気付き、母親が玄関まで出て参りました。
そして母の第一声・・・・・。
「あんた!そんなに服汚して、どっかで転んだの?」
母の視線は私の肩の部分に・・・・・。
あわてて服を脱ぎ、見てみると、そこには泥がべったりと付着していました。
人間の掌の形そのままに・・・・・。