590 :能面:02/03/24 02:29
私が中学3年生の時の話です。
その日私は同じクラブの友人宅にお邪魔しておりました。
初めて上がらせて頂くお宅だったのでいささか緊張気味であったのを記憶しいます。
その友人宅の玄関に非常に面白いものを見つたのです。
『能面』
なんでも祖父の形見だそうで、かなり古ぼけた面でありましたが、由緒ある逸品であるそうでした。
白髭をたくわえたその能面は『翁』という名称でありました。
私は美術工芸品などにも興味があり、その面に非常に心惹かれたのです。
彼の母親から面についての話をうかがった後、彼の部屋に向いました。
途中の階段で、ある人物と遭遇したのです。
それは彼の弟です。
「彼の家なのだから別におかしくはないではないか!」
と、思われるでしょう。
しかし彼の弟は少しばかり特別なのです。
特別という言い方は不謹慎でありました。
いわゆる精神障害児なのです。
その為、学校にも来てはいなかったので、弟がいるという話を聞いてはいたものの、本人に会ったのは初めてだったのです。
彼の弟は頭からジャンパーのようなものをかぶり、私と顔をあわせないようにすれ違いました。
『対人恐怖症』という類の障害だそうで。
不憫に思ったが彼の弟にも彼にもかけてやる言葉は見つかりませんでした。
『ガタン!カラン・・・・・・』
彼の部屋で談話していた私達の耳にこんな音が聞こえてきました。
扉を開け二人で廊下を覗くと、壁に掛けてあった能面が床に落ちて割れているではありませんか。
彼の母親も音に気付き別の部屋から出て来られました。
『あら、まぁ・・・・・。』
彼女が絶句したのも無理はありません。
割れ方が少しばかり異様なのです。
左右対称に真ん中から真っ二つに割れていたのです。
真っ二つに割れた『翁面』になにやらうすら寒いものを感じたのは私だけでは無かったはず。
そして数日後。
私の元にある訃報が届きました。
彼の弟が亡くなったのです・・・・・・。
死因は、飛び降り自殺。
頭は真っ二つに割れ、即死だったそうです・・・・・。
即座にあの『翁面』を思い出しました。
面の暗示だったのか、それとも面の呪いなのでしょうか・・・・・。
今となっては知るよしもありません。
故人の御冥福を心よりお祈りいたします。